スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

よくわからんが神様からの課題をこなさないと死ぬらしいので全力でクリアする

「じゃあ、神様が本当にいるっていうならそれを証明してみせてくれないか」
 期待を裏切られた俺は、頭に来ていたんだ。
 神様だとか、いもしないくだらないものに俺の貴重な時間が奪われたから。
 だから俺は、どうせ無理だと思ってそう言った。
 どうせこんな女の子には何もできやしないと。

 あの光景をみるまでは、確かにそう思ってた――。

 
   *   *   *


 ラブレター。
 男子高校生なら一度はそれを貰えると夢に見たことがあると思う。俺もそれは同じで、高校に入学すれば一度くらい貰えたりするんじゃないだろうか、なんて考えていたこともあった。それゆえに高校受験も最近まで女子高だった『桜ヶ丘高校』にしたわけなんだけど。まあ、実際は入学してからそんなイベントなんて、全く起きることなく一年が過ぎたわけなんだが。
 べ、別に貰えなかったから悔しいとか悲しいとか思ったりしてるわけじゃない。それに俺には二次元がありますし? 三次元なんていりませんし? ていうか、どう考えても三次元の女の子なんかより、あきちゃんの方が可愛いんだよなー。
 あきちゃんというのは俺の好きなアニメ、『戦車部!』というアニメの主人公だ。女子高生が戦車に乗って戦うという――
「ウーッス」
 いきなり背中を叩かれた。せっかく俺が今から戦車部について語ろうと思っていたのによくも邪魔してくれたな……!
 横を向いて声を掛けてきた爽やかイケメン野郎を睨む。身長が俺よりも高いので、若干見上げる形になってしまうのが憎い。
「なんだ? また自分の世界に入ってたのか?」
「うるさい、ほっとけ」
「お前も飽きないなー。そんなんだから彼女もできないんだぞ」
 高校デビューがまぐれで成功したやつに言われたくないね。お前だって中学までは俺と同じオタクで彼女いない=年齢だったじゃないか。
「余計なお世話なんだよ、靖之」
 薬師寺靖之、小学校からの腐れ縁だ。それは高校に入ってからも続いて、今年も同じクラスになってしまった。中学時代までは俺と同じでアニメを愛するオタクだったのだが、高校入学前に壮絶なイメチェンをしてムカつくことにそれが成功して、鮮烈な高校デビューを果たした男だ。さっき語った、男子高校生の夢であるラブレターを貰うということ。その夢を、俺はこいつに散々見せ付けられてきたのだ。……こいつだけは許さない、絶対にだ。
 それ以来、俺はこいつのことがほんと嫌い、大ッ嫌い。別に羨ましいからとかじゃないんです。二次元を捨てて三次元に走ったことが許せないんです僕は。
「朝から暗いな、そんなんじゃ彼女なんてできないぞ?」
「お前のせいだよ!」
 こいつと歩くと俺がただの引き立て役になるんだよな……。つらっ。
 家が近所なせいで大体こいつと登校するのだが、ほぼほぼ毎日のように女の子に声をかけられる。靖之が。靖之だけが!
 それは二年に進級して一ヶ月たった今も変わらない。今も俺が不満を思っている間に他校の女の子に声を掛けられたようだ。……ほっといて先いこ。
 これが二次元だったらなあ。可愛い幼馴染が迎えに来たり、ちょっとツンデレな子と出会ったり、ヤンデレ系女子に追っかけ回されたりと、楽しい朝のイベントが起こったりするんだろうけど。……最後のは楽しくはないな、うん。しかし、そこは三次元の現実世界なのでそんなイベント起きる訳もなく、今日も虚しく校舎にたどり着いてしまった。
「おーい、翔平待てよー」
 ちっ、追いついてくるなよ。
 昇降口の入口で靖之が俺に追いついた。一緒に登校するのが嫌な理由はさっきの他にまだある。
 それは――
「うわっまたか」
「ちっ」
 靖之が下駄箱を開けると大量のラブレターがバサバサっと落ちた。あとで呪いの人形買おう、そうしよう。
「まあまあ、翔平もあるかもしれないだろ?」
「あるわけないだろ」
 全く期待していない。期待してないんだけど、やっぱり下駄箱を開ける時に、もしかしたらと思ってしまうのは男の性なのか。毎日この時は少しドキドキしてしまう。いや、一度も入ってたことないし、淡い期待だってのはわかってるんだけどさ。
「…………」
「どうした?」
「な、ななななんでもない」
「いや、明らかに今のお前おかしいぞ?」
「オカシクナイヨ」
 不思議そうに俺の方を見て尋ねる靖之。お前はもうどっかいけ!
 下駄箱を開けると、一通の手紙が入っていた……ような気がする。なんか紙っぽいのが入っていてびっくりして閉めた。
 まさかね……? いやいやいや、でも今の間違いなく手紙っぽかったよな。もしかしてついに俺にも春が来ちゃったとか? ふふふ……、ふーはっはっは。ついにこの世界も俺を認めたということか! ……っと、こういう場合、勘違いしてたっていうパティーンが一番怖い。もしかしたら俺の妄想なだけだったかもしれないので、しっかり確認しておくとするか。
 もう一度、下駄箱をゆっくりと開けてみる。すると、やはり中には一通の手紙が入っていた。
 今度は、他人の下駄箱だっていう落ちじゃないよなと思い、確認する。うん、やっぱ俺の下駄箱だわ。
 あとはこの手紙が誰宛かってことだ。他の奴の下駄箱に入れるつもりが、間違って俺の下駄箱にいれてしまったという、おっちょこちょいの子にありがちなやつの可能性もあるからな。
 靖之バレないように気を配りながら手紙を手に取り確認する。裏側には『森くんへ』と書かれていた。

 ひゃっふううううううううううううう! きた、きましたわー! ついに俺の時代! 
 
 確実にこれは俺宛の手紙だ。わざわざ下駄箱に手紙を忍ばせておくなんて間違いなくラブレターだ。もうそれしか考えられないでしょう! 
 っと、こうしてはいられない。
「あ、いてててて」
「どうした?」
「いや、腹痛が痛くて、悪いけどトイレ行ってくるわ!」
「お、おう。気をつけてな」
 完全に勝ちを確信した俺は、肝心の中身を確認するため、急いで近くのトイレに駆け込んだ。教室なんかで開いたりしたら回りに冷やかされかねないしな、主に靖之に。もし、手紙の主が同じクラスの子だったら可哀想だ。慌てたせいか、変な言い訳をした気がするけど問題ないだろ、うん。
「どれどれ……」
 個室に入って手紙の封を切り、中身を確認する。
『今日の放課後、大事な話があるので裏庭で待ってます。Tより』
 あー、これは完全にラブレターですね、わかります。放課後が待ち遠しすぎる。
 可愛く丸字で書かれた内容を見て、思わず顔がニヤけてしまう。今誰かに見られたら変態と勘違いされるかもしれない。
 初めてのラブレターに興奮を隠しきれず、俺はいつもより軽い足取りで教室に向かった。
 わいわいと朝から騒がしい教室に到着し席に着くと、同じタイミングで担任の星野先生がやってきた。
「おはようごさいます……」
 今日も変わらず声が小さいなこの人。
 教卓の前に立つ暗いオーラを纏った細身の女性。黒色の長髪が貞子のような髪型になっていて、誰も先生を素顔は見たことないらしい。本当か嘘かは知らないけど。
 当たり前だが、生徒たちの間では貞子というあだ名で呼ばれている。
「今日はホームルームの前に、これからこのクラスで一緒に過ごしていく転校生を紹介したいと思います……」
 え? 今なんて言ったんだ。声が小さすぎて一番後ろの俺までよく聞こえないんだけど。真ん中あたりの生徒も上手く聞き取れなかったようで、「えー、今何て言ったんですかー?」なんて声があがる。それを聞き取れた一番前の生徒が、後ろの方に伝えるのがこのクラスの日常だ。
「転校生がくるってー!」
 前の生徒がそう言うと、クラス中がざわつき、席の近い者同士が話し始める。
「可愛い子がいいな」
「イケメンかな?」
「どんな子かなー?」
 みんなが転校生に興味を持っているようだ。
 だが、今の俺にはぶっちゃけそんなことどうでもいいんですよ。たとえ転校生がどれほど可愛かろうが、綺麗だろうが、性格が良くても俺には関係ない。何故なら俺にはこの手紙の主、Tさんがいるからだ。
「みなさん、お静かに……」
 星野先生が何か言ったように聞こえたが、生徒がざわついているせいで全く聞き取れない。代わりにまた前の生徒が口を開く。
「静かにしろだってさー」
 その言葉でようやく静かになる。しっかしこの代弁システム本当めんどくさいと思うんだけど。
「では鈴原天音さん、お入りください……」
 またぼそぼそと呟く。もうちょい大きい声だせないのだろうか……。いや、だせたらこんな代弁システム使ってないよな。
「転校生さん、入っていいって先生が言ってますー」
 ああ、なるほど。呼んだけど転校生に聞こえなかったのね。まあドア越しだし無理もないか。
「失礼します」
 透き通るような声がした。
 生徒の声でゆっくりと扉を開けて、すたすたと教卓の前まで歩いていく転校生。

 天使がいる――。

 素直にそう思った。
 くりっとした丸い目をしていて、まるで二次元のキャラが現実世界に降臨したんじゃないか、なんて思ってしまった。
 歩く姿がとても絵になっていて、さらさらと靡く明るい色の長い髪がよく似合っている。
 高校生とは思えないほどにスタイルがいい。制服越しでもそれはわかる。細めのウエストに、少し短めのスカートから見えるすらっとした生足。そして極めつけは、歩くたびに揺れているおっぱい。とても高校生のものとは思えん。けしからん。
 少女は教卓の前に立つと挨拶をし始めた。
「はじめまして、鈴原天音といいます。みなさんとはこれから一緒に楽しい学校生活をおくっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」
 挨拶をし終えると、鈴原さんが一瞬こっちを向いて微笑んだような気がした。
 え、なになに? 俺に気があるとか? 待て、待ってくれ。確かに君は凄く可愛い。それにおっぱいも大きい。正直一目惚れレベルだけど、今の俺にはTさんがいるんだ。俺はこの人を大事にしたいと思ってる。君はイニシャルA・SでTさんではない。そもそも、今日転校してきた子が初日にいきなりラブレターを渡してくるなんてありえないだろうし。だからすまないが、君の気持ちには答えられないよ。でももし、Tさんとうまくいかなかったときは君と付き合いたいと思います。おっぱい大きいし。
「それじゃ、鈴原さんは一番後ろの空いてる席に……」
 先生の言葉に鈴原さんが「はい」と返事をすると、てとてととこちらに歩いて来て隣の席に座った。
「よろしくお願いしますね、森くん」
 こちらを向いて、にこりと微笑む。不意打ちとはやるな、この子。しかし見れば見るほどやっぱ可愛いんですけど。くっ……、何故ラブレターの子がこの子じゃないんだっ! いや、待て。世の中の男の何割がラブレターなんてもらえるだろうか。そう考えれば、もらえた俺は幸運なわけで、相手がこの子じゃないからと文句を言ってはならないな。
「よ、よろしく」
 挨拶を返すと、鈴原さんはまたにこっと微笑み返してくれた。なんだよ天使かよ。
 …………あれ。
 不意に、今のやりとりに何か違和感を覚えた。……なんだろう。何かひっかかったんだが。
 しばらくそのことを考えてみたが、違和感の正体はわからなかった。それを考えているあいだにどうやらホームルームは終わったようで、みな一時間目の授業の準備を始めている。
 転校生の登場で朝は少し慌ただしかったが、一時間目はいつも通り始まった。
「あの……」
「はい?」
 授業が開始してまもなく、隣の鈴原さんに声を掛けられる。
「教科書がなくて……よかったら見せてくれないかな?」
 ああ、そういうことか。転校初日だし、教科書とかそういうの持ってないのは仕方ないね。
「わかった、いいよ」
「やった、ありがとうございます」
 言うと、お互いの机を合わせてあいだに教科書を開く。さっきよりも距離が近づいたからか、鈴原さんから柑橘系のいい香りがする。なんだこれ、ずっと嗅いでたいんですけど。クンカクンカしてたいんですけど。……おっと、自重しないと。俺にはTさんがいるのだから。
 しかし、結局Tさんは誰なのだろうか。先輩? 後輩? 同級生?
 一年生はこの学校に入学してまだ一ヶ月だから可能性は薄い。じゃあ先輩……いや、ただでさえ同学年ですら交流が少ない俺が、いきなり上級生に好意を抱かれる可能性は低いか。となるとやっぱり同級生……更にはその中でも同じクラスの女子の可能性が高い、という結論に至るわけだ。でもだ、そもそもこのTは名字なのか、名前なのか。Tさんヒント少なすぎっすよ……。
 ……いや、待てよ。
 このクラスのT候補。名字だとすれば三人いる。
 一人目は高藤さん。成績優秀、真面目で教師からの信頼も厚く、このクラスの学級委員長だ。メガネっ子な所も俺的にポイント高い。ただ付き合ったら尻に敷かれそう。
 二人目は寺本さん。先ほど俺の中で順位変動があったが、それまではこのクラスで一番の美少女だった子だ。クラスの大抵の男子が、一度は彼女で如何わしい妄想をしたに違いない。俺はしてないけど。いや本当に。
 三人目は藤堂さん。……こいつはないな。そもそも住む世界が違うし、ギャルだし、ヤンキーっぽいし怖いし。でもあれか、もしかしたら本当は純情な子でした、ということもあり得なくはないのでは。ビッチ系処女とかちょっと萌える。
 俺の推理が正しければ、この三人の内誰かが手紙の主だ。名前がTの可能性もあると思ったが、『森くんへ』と名字で俺のことを記入しているので、このTも名字だという可能性が高いはず。
 それにしてもこの三人、まったくと言っていいほど接点ないんですけど? なんで俺のこと好きになったかとても気になるところ。まあ、その辺は告白された時に直接聞いてみるとしよう。
「あの?」
「ん、どうかした?」
 そんなに俺と話したいのだろうか。俺としてもこんな可愛い子に話しかけられるのは嬉しいので問題ないんだけど。というか、近くて見てもやっぱりおっぱい大きいな。
「ページ捲っても?」
「あ、ああ。ごめんごめん」
 なんだよ、ページかよ。
 ラブレターの差出人が誰か考えているあいだ、どうやら授業はどんどん先に進んでいたようだ。それに気づかないほど集中して考えていたということか。
 しかしあれだ。今日は授業どころじゃないな。完全に思考がラブレターで一杯になってる。でもそれも仕方のないことだろう。なんせ、待ちに待ってやっときたイベントなのだから。今日くらい授業に集中していなくても神様も怒るまい。神様なんて信じてないけど。
 と、言うわけで。
「鈴原さん」
「はい?」
「ちょっと俺、今日は考え事をしたいから教科書適当に使っていいよ」
「はあ……?」
 とぼけたような声で返された。
 うん。なんかその顔そそられますね、GOODです。
「えっと……」
「ページ捲るのも自由に使っていいよってことだよ」
「ああ、そういう……」
 ふむ、どうやら伝わったか。
「でもいいんですか? 私がお借りしても」
「いいよいいよ。今日は授業受ける気がしないんだ。だから他の授業の教科書も貸しておくよ」
 机から今日の授業で使う教科書を取り出し鈴原さんに手渡す。
「ありがとうございます、お言葉に甘えて使わせて貰いますね」
「いやいや、困った時はお互い様さ」
 きまった……。このやり取りでかなり好感度が上がったはず。ギャルゲーならもう完全に俺に惚れてしまったね! 間違いなく鈴原さんルート突入っしょ! さあ鈴原さん、もっと話しかけてきておくれ、親睦を深めようじゃないか!


   *   *   *


 結論から言うと、あれからろくな会話もなく放課後になってしまった。
 と言うのも、たぶん鈴原さんは俺と話したかったのだろうけど、周りが邪魔したのだ。やれ何処から来たのとか、彼氏はいるのとか、趣味は何とかetc……。
 とにかく、クラスメイトの奴らがいろいろと鈴原さんに質問攻めしていたせいで、まともに会話することができなかった。
 そんな邪魔さえなければ、今頃鈴原さんのハートを完全に射抜いていたはずなのに……!
 だが、その質問のおかげで、ある程度彼女のことがわかった気がする。
 どこから来たのか→秘密。
 彼氏はいるのか→秘密。
 趣味は→秘密。
 ……いや全然わかんねえよ! 全部秘密とか何処の秘密主義者だよ! なんか言っちゃダメな理由でもあんの!?
 さすがにその答えは、この子ちょっとおかしいんじゃないのかな、なんて思ってしまう。
周りの生徒たちもたぶんそう思ったのだろう。時間が経つごとに休み時間、鈴原さんの周りに集まる人は減っていった。それでも放課後まで何人かは話し掛けていたわけだが。
 …………っと、今はそんなことどうでもいいんだった。今から俺の人生で最大級のイベントが起きるんだ。途中から鈴原さんに気を取られて、若干忘れていたような気もしないではないが、とにかくこうしてはいられない。
 待っててねTさん、今会いに行きます!
「翔平、帰ろうぜ」
 誰だお前。今日は靖之にかまってる暇ないんです。忙しいんです俺は。
「用事あるから無理。ぐっばい!」
 それから急いで帰る仕度をして、指定の場所である裏庭に向かった。
 この高校の裏庭は滅多なことでは人が来ない。それは一年間この学校に通っていてよく知っていた。昼休みなんかにたまにそこで昼食をとったりするのだが、人なんか見たことない。たぶん放課後もそうなのだろう。そう考えると、告白するにはうってつけの場所なのだろう。
 裏庭に到着すると、まだ人の気配はなかった。どうやら俺の方が先に着いたらしい。到着したとき先に女の子が待っていて「森くん……待ってたよ……」と、顔を赤らめながら告白されるなんてのを想像していたが残念。
 先に来てしまったのは仕方ないし、とりあえず待つとしようか。
 十分後……。
 まだこない。
 二十分後……。
 ……遅いな。
 三十分後……。
 あれ? もしかして俺騙されてる?
 四十分後……。
 さすがにもう諦めて帰ろうとしたときだった――。
「ごめん、ごめん! お待たせ!」
 少女は息を切らしながら俺に向かって謝った。
 本来ならどんだけ待たせるんだよと、怒る場面なのだろう。だけど俺は、目の前に現れた少女が想像していた三人の誰でもなくて、今日転校してきたばかりの鈴原天音だったことに、ただ驚いてしまっていた。
「えっとー、森くん?」
 え、なんで鈴原さんがいるの? 俺を呼び出したTさんはどこなんですか? 鈴原さんはSでTじゃないだろ。
「森くーん?」
 ああ、わかったイニシャル書き間違えたんだ。SとTって一つ違いだしな。鈴原さんったらお茶目だな。……あれ? だとするとなにか。鈴原さんと俺は一度どこかで会ってたりするのか? そうじゃなきゃ転校してきた初日、ましてや朝の段階で俺の下駄箱にラブレターなんて入れるわけもないだろうし。……うん、考えてもさっぱりわかりません。
「ちょっとー! 聞いてるの?」
「は、はい!?」
 どいうやら鈴原さんはずっと俺を呼んでたっぽいな。すっかり自分の世界に入ってて気付かなかった。
「えっと、何か俺に用、かな?」
「あれ? 手紙見てくれたんじゃないの?」
 やっぱりあの手紙は鈴原さんのなのか。じゃあ――。
「えっと大事な話だったよね。俺はいいよ。むしろ鈴原さんみたいな可愛い子に告白されるなんて男冥利に尽きるってもんだし」
「は? 何言ってるの? 告白? 誰が? 私があなたに?」
 え、何その顔。
 その表情はこれから好きな男子に告白するような表情ではなかった。教室で俺に向けてくれた笑顔はそこにはなく、軽蔑するような眼差しを向けられた。つうかこの子さっきまでとキャラ全然違ってませんか? こんな感じじゃありませんでしたよね。なんなんだよ一体……。
「えっと……じゃあ大事な話っていうのは……?」
 こんなところに呼び出して、わざわざ俺を馬鹿にしに来たのか?
「そうそう、大事な話ね」
 コホンと可愛らしい咳をする。
「森翔平さん。あなたには、これから神様から出された課題をこなしていってもらいます」
「はあ……」
「私は、あなたが課題を取り組むのを見守りながらサポートするように言われた天使です」
「そうですか……」
 ……ってなんか軽く聞き流してたけど何? こいつ今なんて言った? 神様? 課題? 天使? どういうことだってばよ……。
「あの……?」
「はい、なんでしょうか?」
「えっと、神とか課題とかって何? ていうか君が天使? 頭大丈夫?」
「頭は大丈夫だし! 私は天使なの! で、神様からあなたへの課題を渡す係! オーケーわかった?」
 あ、また口調が戻った。たぶんこっちが素なんだな。
「あいにくだけど、神様とかそういうの信じてないから。そういうのは誰か違う人誘ってあげてくれ」
 まったく……なんなんだよ、ただの宗教勧誘だったのか。神とか天使とか、そんなの二次元の世界だけで十分だっつうの。めちゃくちゃ期待してた俺が馬鹿みたいじゃないか……。俺の貴重な時間返してくれよな……もう帰ってゲームしよ……。
「それじゃ、ばいばい」
 明日からはなるべくこの子には関わらないようにしよう。そう思って別れを告げた。
「ねえ、待って!」
 後ろから思い切り腕を掴まれ、彼女の豊満なおっぱいが布越しにだけど確かに伝わった。こ、こここれが本物のおっぱいの感触……。
「ちょちょちょっと、は、離してくれるかな」
「あ、ご、ごめん……」
 俺の言葉に慌てながら離れる鈴原。しまった。もう少し、あのおっぱいの感触を味わってからにすればよかった……。
「……ねえ、課題やろう?」
 落ち着きを取り戻した鈴原はそう言った。
「そんなわけのわからないものやるつもりはないよ」
「でも、やらなきゃあなた死んじゃうんだよ!?」
 はい? 死ぬ? 今度は脅してきたか。
「意味がまったくわからないんだけど。ちゃんと説明してくれない?」
 なぜ、そこまでして俺にその課題とやらをやらせようとするのか。 
「えっとね。あなたはこれから一週間後『死』が予定されているの。このまま若くして死ぬなんて嫌でしょ? まだやりたいことだってたくさんあるよね? そこで神様は、若くして不幸な死を予定されている男に課題を出すことで、『死』を回避できる救済措置を与えてくれてるのよ」
 あー、これ完全にタチの悪い宗教かなんかだろ……。死が予定されてるとか。可哀想に、こんなに可愛い子なのに悪い宗教に染められてしまったんだな……。
「なるほど、わかった」
「それじゃあ……!」
「まあ、それで死ぬならそれまでの人生だったってことさ。それじゃ俺もう行くから」
「まってまって! 本当に死んじゃうんだよ、いいの!?」
「いいんじゃない? 君の話が本当ならだけど」
 どんだけ勧誘に必死なの……。本当にしつこいなこの子。
「ねえ、どうしたら信じてくれるの……?」
 いつの間にか鈴原の顔は今にも泣きそうな表情をしていた。はぁ……。
「じゃあ、神様が本当にいるっていうならそれを証明してみせてくれないか」
 信じるって言ったってな……。神とか天使とか信じろっていう方が無理だろ。ただまあ……。
「君の言う、神様や天使の力を見せてくれたら信じないこともない、かな。あるんだろ? 何か特殊な力とかさ。神様なんだし」
 どうせ見せられるはずないけどね。
「それは……」
 ほら、困ってる。宗教なんてそんなもんだよ。奇跡の力だーとか、そんなもんそれに依存しなければ生きていけない奴らが勝手に言っているだけだ。
「……あ、神様が力を見せてくれるって」
 はい?
「どうやって?」
 俺の質問に鈴原は目を閉じてしばらく黙っていた。なになに? 神様と交信みたいなことでもしてるの?
「今地上に降りたから、少し待ってなさいだって」
 あ、やっぱりしてたんだ。ていうか地上に降りちゃったのかよ。別に天界とかそこから力見せれば良くないですかね? 神なんだから。
 仕方なしに数分ほど待っていると、裏庭に一人の女性がやってきた。その人は俺のよく知る人だったが、いつもと違う雰囲気で目の前に立つと、めんどくさそうに話し始めた。
「まったく、めんどくさい子供だなー。神の力が見たいって?」
「いや、言いましたけど。何してるんですか星野先生」
 そう、目の前に現れたのはうちのクラスの担任の星野先生だった。この人まで変な宗教に関わっていたのか。確かになんかやってそうな人だけど。ていうか先生、そんなはっきりと話せるんじゃないですか。授業もそれくらいの声でしてくださいよ。
「あー、星野先生ってこの身体の持ち主のことか。今ちょっとばかし借りてるんだわ」
「はあ……」
 この人こんな人だったのか……。危ないからこの人とも今後は距離をおこう。
「なんだ、その反応は。お前が力が見たいって言うから、天界からわざわざ降りてきてやったんだぞ」
「いや、言いましたけど」
 言ったけどさ。これはちょっと、ねえ? なんか神様、大分フランクな話し方だしさ。もう少しこう、神様っぽい喋り方とかあるんじゃないんですかね。
「仕方ないから見せてやるよ、力」
 ――瞬間、目の前が黄色い光に包まれた。同時にドンッという大きな音が鳴り響く。眩しすぎて何が起きているのか全くわからない。一体なんなんだこれ……。
 光が収まり、視界が少しずつ戻ってきた。瞼を擦りながら周囲の状況を確認する。
 そして、気づいた。

 学校が、ない。

「……え」
 …………えっ?
「ええええええええええええええええええええええええええ!?」
 ちょっと待って!? 学校どこいったし! 今の今までここには校舎が建っていたはずなんだ。いや、というかそこにはまだたくさんの生徒や教師もいたはずで――。
「おい、あんた何したんだよ!?」
「ん、神の力みたかったんだろ? なんかわかりやすいのがいいかなと思って」
「いやいやいや、そういうレベルじゃないだろ!」
 なんかわかりやすいのがいいかなと思って、じゃないんだよ! どーすんのこれ!? いきなり消息不明者続出だよ! こんなん絶対大騒ぎになるぞ、ていうかマジで跡形もなく消えてるんですけど……こいつ、本当に神様なのか……?
「だからそう言ってるだろうに」
 は? なんだ? もしかして俺の心読んだのか?
「うん。神様だし、人の心くらい読めるだろ、普通」
 普通ってなんだよ……。というかそもそも、それが出来るならそっち俺に見せて? 学校消すまでしなくていいですから、なんでわざわざ学校消しちゃったのこの人。
「ああ、確かにそれもそうだわ」
 いや、気づけよ。じゃなくて、
「消した校舎は元に戻せないんですか」
「ん、戻せるぞ、ほら」
 俺の問いに神様がめんどくさそうに答えると、先程と同じように光に包まれ消えたはずの校舎が復活した。
「よかった……戻せるのか」
 こんなんで何人もの人生を終わりにしたら申し訳無さ過ぎるからな……。本当に戻ってよかった。
「で、神の存在信じたみたいだし、もう帰っていい?」
「あ、ありがとうございます。すいません、わざわざ地上に降りてきてくださって」
 神が登場してから今まで沈黙していた鈴原が、そう答えた。
「ん、じゃあ帰るから。君も大変だろうけど頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
「あと、森翔平」
「は、はい」
 急に神に名前を呼ばれて驚いてしまった。なんだ、何かされるのか? あんだけ神を馬鹿にしてたのを根に持ってたりするの? すみません、もうしませんから許してくださいお願いします。
「君に課題を出すのは、神の善意であって、受ける受けないは君の自由だ。だけどな、君がこの課題を受けないと不幸になる人もいるんだ」
 ……俺が課題を受けないと不幸になる人、つまり俺が死ぬと悲しむ人がいるってことか? 家族とかのことを言っているのだろうか。
 しかしまあ、あんな力を見せつけられてしまった以上、話を信じるしかない、よな……。信じたくはないけど不思議な力があるのは本当だし……。課題をクリアしなければ死ぬと言われるならやるしかないだろ……。
「俺……やりますよ、あなたの課題。まだ死にたくないですし、やりたいことだってたくさんあるんだ」
 何がやりたいかって言われたら、すぐには思いつかないけど。
「結構。あとのことは天使から詳しく聞くといい。二人で協力して課題をこなしていきなさい。課題の内容も天使に渡しておいたから」
 そう告げると、神様は校舎に向かって歩いて行った。そういえば身体は星野先生のだったっけ……。
「本当だったでしょ?」
 神様が立ち去ると、俺に断られ続け泣きそうな表情をしていた鈴原は笑みを取り戻していた。
「……疑ってすみませんでした」
 だって、まさか神様だとか天使が本当にいると思わないじゃん。ただ、一つ気になったことがある。
「なんでそこまで俺を助けようとしたんだ?」
「へっ?」
 俺の質問に素っ頓狂な顔をする鈴原。いや、天使と呼ぶべきなのだろうか。
「あ、ああ……そりゃ若い人が不幸な死を遂げるってやっぱり可哀想じゃない? 家族だって悲しむだろうし。助けられる命なら助けてあげたいじゃない」
「本当にそれだけか?」
 その言葉にギクッとしたのを俺は見逃さなかった。
「え、それって……」
 そう、俺に隠し事はたとえ天使でもできないのだ。俺を助けたかった本当の理由、それは――。
「俺に惚れちゃったわけだ」
「いや、それはない」
 即答された……。いいもんいいもん。俺には二次元があるもん。
 悲しくなって土を弄っていると、後ろから優しく肩に手がかかった。
「ねえ?」
「なんだよ……ほっといてくれよ」
「とりあえず課題、みないの?」
 ああ、そう言えばそうだった。それをクリアしないと俺死ぬんだったな。
「その、課題が何かって言うのは天使さんが持ってんの?」
「天音でいいわよ。人前で天使とか言われるの恥ずかしいし、そう呼んで」
 いきなり名前で呼んでとか、やっぱりこの子俺のこと好きなんじゃないんですかね。
「じゃ、じゃあ俺のことも翔平でいいよ」
「オーケー。じゃあ、しょーへー」
 あれ? 俺の期待してた呼び方となんか違うんだけど。なんでそんな間延びしたふわふわした感じなの。
「質問に答えると、私は神様から課題の書いた手紙を預ってるわ」
 天音は鞄に手を入れると、ごそごそと中を探して一通の手紙を手にとった。
「これね。どうぞ」
「お、おう」
 これが神からの手紙……、なんか普通だな。百均とかに売ってそうなんだけど。てかこれ、朝下駄箱に入ってた手紙のやつと同じものじゃないですかね。手抜きすぎだろ、神様。
「天音は何書かれてるのか知ってるのか?」
「知るわけないじゃない。課題を最初に見るのは当事者って決まってるのよ。決まりを破れば罰を受けるんだから」
「そうなのか……」
 今更だが緊張してきたな……。
「ふう……」
 気持ちを落ち着かせるために、軽く深呼吸をする。
 この課題をクリアできるかどうかに俺の人生が懸かってるんだ。
「開けるぞ……?」
「う、うん」
 一体どんな内容が書かれているんだろうか。死を回避するための課題だと言うんだから、中々に厳しいものに違いない。不安の中にちょっとした好奇心が混ざった心境で俺は手紙を手に取り、封を開けた。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

メンバー紹介

暁英琉

Member:暁英琉
甘々系の話が好きな人。二次創作活動はpixivとハーメルン。
Twitter:elu_akatsuki

Member:山峰峻
マグロ。二次創作活動はpixiv
Twitter:kuro_pachi

Member:高橋徹
夢は官能小説家。二次創作はpixivとハーメルン
Twitter:takahashi_toru_

Member:がんも
自転車兼売り子。二次創作はpixiv
Twitter:ganmo_doki52

検索

リンク

――――――――――――――――
――――――――――――――――

山峰峻のpixiv
―――――――――――――
―――――――――――――

がんものpixiv
―――――――――――――

アクセスカウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。